ついったーで頂いたお題を消化しております。
お題：「聖夜と部品屋の自販機の決戦」

暑い。
今日はとても暑い。

風間聖夜はマレーシアにあるとある街でため息をついた。

日本人である彼がここを訪ねてくる理由。
それは友である少年がこの街に暮らしてからである。
ＳＩＮＮになってからであった友人の一人であり、聖夜にとって心を許せる人物の一人だ。
今回の彼の目的地はその少年の暮らしている場所だった。
機械の部品や家電を売る店なのだが……。

そこには一つの自販機がある。そう、街にもありふれた定番のカップ式自販機だ。
だが、使ってみるとこれがありふれるどころか奇妙奇天烈。
魔改造でもされてるのではないかと思うほどの個性豊かな自販機だったのである。
もちろん聖夜も何度か被害にあっており、いつか普通の自販機にしてやると思いを抱くほどだった。
そして今日こそ、その思いを決行する日。
銀行でコインもたっぷり作った。あとは対面するだけである。

万感の思いを決して部品屋の中に入ると……。

なんか人型に変形し、取り出し口の扉を開閉ダンスさせている自販機がいた。
はじめからラスボスですかわかります。

もう既に聖夜はこの自販機は普通の自販機じゃないと思っていたからか彼は全く動揺せず、自販機のコイン挿入口にコインを落とし、ボタンを押した。
暫くもせずに、コトンッと軽快な音がする。コップが落ちてきた音だろう。
すでにこの時点で珍しい。
　「もしかしたら普通の自販機に戻ったのか」とつぶやく。
人型に変形している時点で普通の自販機ではない事にツッコミは入れてはいけないのだろう。きっと。
だがその思いは期待をすぐに裏切った。
ガコンガコンガコンガコンという明らかにカップ式とは思えない音をたてる自販機。
それを声も出さずに見守る聖夜。
暫くして軽快な開閉音とともにロボットアームで差し出されたのはなんのことはない。

冷凍パインだった。

「なんのこともあるだろう」

しかし受け取ってしまったのだから食べるべきだろう。
ため息を吐くと友人にフォークを貰い(「またやってるの？」と本当に不思議そうにいわれてへこんだが)パイナップルをつつく。

カキンッ

……フォークの先が刺さらない。目を細めて、部品屋の梁だろうか……木材らしき部分に釘を軽くさして、一口大の冷凍パインを打ち付けた。……けっか、釘は先ほどより深く潜り込んだ。もちろんパインは無傷である。
明らかに食べれない硬度のようだ、と聖夜が結論つける。
その間、自販機がとても楽しげな音楽をならして開閉ダンスどころか普通に踊っていたことを追記しておく。
このままでは終われない。奥歯をかみしめて自販機をにらみつけた。
ふわりと羽が舞うような光が現れ、手からは紫電の光が洩れる。

―――いや、まだだ。僕は我慢強いんだ。

放ちかけた電撃を抑え込んで、聖夜は再び自販機に向かい合った。
そしてコインを落とし、ボタンを押した。

ジャー………コトンッ……ガタタタッ

明らかに何か音がおかしい。
そしてロボットアームで差し出されたのはかき氷だった。しかも無味。
もちろん受け取り、スプーンを口に運ぶ。
海外の水は煮沸してからのめとはいうが、氷の原料は業者が卸しているのだろうし大丈夫だろう。
とりあえず、残りはそっと部品屋の冷蔵庫にしまった。まあ、ばれるとしても夕方以降だろう。

「次、まともなの出さなかったら制裁するから」

コインを投入口に落としながらつぶやく。
奇妙な沈黙。聖夜は紅茶のボタンを押した。
カコンッと音が鳴る。
脅しが効いたかとわずかに笑みが漏れた瞬間。

「えっ」

開閉口が開き、紅茶が噴出した。

……その後。
「聖夜なにやってんのー！？」と叫んだ友人のみたものは
煙を上げながら倒れた自販機と紅茶まみれの聖夜の姿だったという。

[0回]