さよなら　さよなら　またあした
　　　めざめぬことは　こわくないの
　　　　　わたしのこわいのただひとつ

　　　　　　　　　　わすれることがこわいだけ

「ティース……儀式の準備が進んでいるが……いいのかい」

初老の男性の声が聞こえて歌うのを止める。
巫女の祈りの間という名前の独房の床に座るぼく。
既にぼくの目に男性の姿はうつらない。
なんのことはない。
ここに入るときに、死を少しでも恐れないようにという処置だ。

「………いいのか、という意味を、ぼくは問います」

「ティースは、死にたくないんじゃないのかい。
　外の世界をみて何を思った？　何を感じた？
　それをみてもまだキミは死ねるのかい。この村の為に」

「………。それが、巫女の、定めです」

そう、それが巫女の定め。
帰ってきたら、死ぬことは定められていた。
だから帰ってくるまではいっぱい幸せをためられるようにと。
従弟の口調や表情をまねて、たくさんの思い出を手にして……。
幸せだった。
ここに帰りたくないと思うほどに。
それでも……ぼくが帰ってこなければ新たな犠牲者をうむ。
そんなのは嫌だったんだ。
巫女としてのぼくは、とても冷静で。
エルフとしてのぼくを、押し殺すには十分で。
だから『父』と言う名前の、声の主に冷たく言い放つ。

「巫女をたぶらかそうとする、愚かな男……。
　出ていってください。
　ぼくは祈りの歌を……捧げているのです」

「……ティース……っ」

声をかみ殺すのが聞こえて、扉のしまる音が聞こえた。
これでいい。これでいいんだ。
ぼくは幸せだった。
みんなに挨拶できてうれしかった。
みんなと遊びにいけたことがなにより新鮮だった。
みんなとの何気ない会話ややりとりがウソみたいに楽しかった。
たくさんの人に会えて、良かった。
たくさんの人の記憶に残れて、良かった。

「………っ………ごめん……っなさ……いっ」

さようならっていえなくて、ごめんなさい。
ありがとうっていえなくて、ごめんなさい。
またあしたっていえなくて、ごめんなさい。
またあおうって言葉に返事をできなくて……ごめんなさい。

ぼくは、あした、一足先に女神様の元にいくから。

だから……みんな、ごめんなさい。

「ティースっ、いっちゃだめだ！！ティースッ！！」

「……シャルロット……」

「まだ、まだ、たくさんのことができるんだ！！
　まだ、たくさんの人を救えるんだ！キミは！！」

「……ありがとう……いつも貴方は励ましてくれた……」

「ティ―――――――ッ」

「さよな――――――――」

衝撃と熱いものと涙と。
色んなものが混ぜ合わさって、どんな気持かわからない、けど……。

ありがとう。好きになってくれて。ともに話した夜を忘れない。キミの為にも良い義兄でいたかった。
ありがとう。義弟として共にあることを許してくれて。大好きになっていくこの気持ちは、本物だった。
ありがとう。初めて『ぼく』が『ぼく』として恋をした義姉。キミの笑顔が見れないのはつらいけど、彼がいるから大丈夫だよね。
ありがとう。本当の楽しさを教えてくれた義弟。キミの明るさはきっと大地を明るく照らす光になる。

ありがとう。あの日、あの時、同じ学園に在れた仲間たち。

どうか、キミたちの中でぼくという存在が朽ちていきませんように……。

……ああ、そうだ。忘れてた。　　
　シャルロット……キミのことが……ぼくはとても心配だから。

ねえ、ひとつだけ、消えゆくぼくが奇跡を起こせるのなら。

どうか、どうか、あの子の瞳を………――――――。

『……むかえに、きたよ……』

　　　わすれゆく　きえゆく　おわりゆく
　　　　　みこはきえはて　どこへむかうの？
　　　おぼえてる　おもいで　きっと　おわらない
　　　　みこはほほえみ　きみをみまもる
　　　　　いつでもあなたをみているよ
　　　　　　　とおい　とおい　ほしのした
　　　　
　　　　　　またであえるひを　ゆめみてる

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最後の言葉はわかるひとだけわかればよいのでし。

ぶっちゃけ背後の同調率が超MAXでした……orz

これの後にシャルロットのお話がリンクしまーす。

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