ぼくの体が宙に浮かび、地面に叩きつけられる。
目の前には一人の男。
一目みれば、男がぼくを殴ったのだと
いうことがすぐわかるだろう。

「……甘えてんじゃねぇぞ、ガキ」
「……っ」
「いいか。テメェのやろうとしたことは
　コモンとしても、狩人としても最低なんだよ」

ぎりっと歯を噛みしめて男は言葉を続ける。

「私情に走んのはいいぜ？　テメェはまだ
　ガキなんだからガンガンやればいい。
　だが、それでテメェの相棒を貶めるんじゃねえっ」
「………」
「いいか、ガキ。なんどでもいってやる。
　俺達狩人にとっちゃあなあ、得物は相棒だ。
　女だ。誰よりも己に忠実な部下なんだ。
　人とかわりねえんだよ。
　それをテメェの手を汚したくないからって
　そいつの手を汚したんだ。
　それがどういう最低なことか……よく考えんだな」

男の姿が闇に消える。
ぼくだけが、この森の広場に一人取り残された。
確かに自分がわるかったのかもしれない。
だが……しかし……。
あいつらは自分を悪魔だと罵ったのだ。
産んだ母を魔女と貶したのだ。
傷ついた自分の思いを教えてやろうと
相手に矢を放っただけだ。
それなのに、なぜ、自分が怒られなければならないのだ。
何度考えてもわからない。
相棒の手を借りてでも……やりたいことはあるのに。
瞳から涙がこぼれる。
悔しかった。
父にわかってもらえなかったのが悔しくて……。
だから、抱きしめられたのにも
抱きしめられたその時まで気づかなかった。
母、だった。真っ白な法衣を着ていることから
きっと聖堂から真っ直ぐここへきたのだろう。

「……な、んで……」
「パパがね……っ教えてくれたんだよっ。
　シャロちゃんが、ここにいるから……って……っ」

ぼろぼろと涙をながしながら母が告げる。

「シャロちゃん……っごめんね、ごめんねぇ……っ」
「……母さんが、悪いわけじゃ……」
「だって……だって……シャロちゃんを、元気に……っ
　産んで……あげられなかったの……っ
　……ママだもん……っ」

ぼくの身体を強く抱きしめたまま
母は泣きながら告げる。
はっきりいって困ってしまった。
確かに原因の一端は母にある。
だが、母を泣かせるつもりはなくて……。

「……悪いと、思うなら……」
「……っ……」
「……今日の夕食、デザート……欲しい」
「……ふぇ？」
「ああ、もう！デザート！欲しいっていったの！
父さんも甘いもの好きだし、謝るきっかけくらい作ってよね！」
「パパと喧嘩したの？？」
「え……うん……まあ……」
「？？……ママからみたら喜んでる風に見えたけどなー」
「はあ！？」
「やっと他人に感情をぶつける様になったかって。
　まだ、やり方わかんないみたいだから
　危なっかしいけどなって笑ってたよ？？」

――……は？殴られ損！？

「でも、悪いっておもうなら、理由もわかってからの
　ほうがいいよ？ママからみたら、シャロちゃん……
　理由わかってなさそうだもの」
「……うっ……」
「ふふふ。パパが帰ってくるまで、一緒に
　お買いものしながら考えよーね♪」

さっきまで泣いていた母がにっこりと笑う。
うん、これでこそ母だ。
そのあと僕らは買い物をして、ぶつぶつ
言いながら帰ってきた父を家で迎えたのだった。

翌日。
父が、ぼくと母を馬鹿にした子供たちの親を
殴り倒したということを知った。
父曰く……「子供は親や近所に住む大人を
見て育つんだよ。だから何を言ったのかを説明して
子供の目の前で殴り倒してやったんだ」って。
……なんて親だ……。
頭を抱えたぼくだったけど、すこしだけ嬉しかったと
いうのは言わないでおこうとおもう。

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